これであなたも焼肉通
知って得するウンチク話
焼肉を身近にしたガス、
炭火の再登場
戦後の食料不足の中、ホルモンを七輪で焼き、主に肉体労働に携わる人々が訪れる店として始まった焼肉。60年代の高度成長期焼に入ると熱源がガス火のロースターに変わり、メニューにはカルビ、ロースが次第に加わり主役の座に。もっとも当時は排煙設備も立派なものはなく煙ボウボウの店内(今、あえてそれをウリにしている店も、あることはありますが…)だから、テーブルや壁も油でギトギトで女性からは敬遠されていました。
‘70年代中頃、無煙ロースターが開発されると様相は変わり、老若男女が訪れて賑わいを見せます。もともとガスには①一発で火が点く②火力を調節できる――という単純明解にして最強の、現代でも変わらぬメリットがあります。それに煙も浴びずに済むのだから。今でもガスは主流派です。
排煙設備の改良は同時に炭火焼肉が草創期以来の再登場を果たすのを促し、2000年代まで一時期は目を見張る伸長ぶりがありました。
炭火のよさ
野外で火を起こす大変さはありますが、青空の下、爽快に、豪快に七輪を囲んで食べる焼肉は最高。どんな焼肉店の設備をもってしても、それに勝るものはありません。たき火は何故かみんなが好き、と言われます。同じくチロチロ燃える炭の炎を見ていると何やら和らいだ、癒された気分にさせられます。これが炭火最大のメリットといえましょう。
それに加えて、実際、炭火で焼くとガスより肉がおいしい。お肉をおいしく焼くには炭火が最も適していると言われています。
まず押さえておきたいのは、焼肉に直火は向かない、という点。肉に直接火が当れば直ぐに焦げるだけ。言うまでもありません。今日最もポピュラーな鉄板(ロストル)タイプも直火に当てず、下からガス火で熱せられた厚い鉄板で肉を焼きます。鉄板にはスリット(隙間)が切られ、余分な油が落ちるようになってはいますが、網で焼くほどは当然落ちません。
また、ガスが燃焼する時に水蒸気が発生、炭火に比べ香ばしさが失われるうえ、逆に不均等な対流熱が素材のみずみずしさを奪うとのこと。
一方、炭火は網で焼いても直火が肉に触れることがありません。よく火の通った炭は炎を出さずに赤く燃えていくので。脂気の多い肉から融けた脂のしずくが炭火で燃え上がることが、まれになくもありませんが…。
遠赤外線の輻射熱で肉の表面だけなく内側まで比較的均等に火を通すことができ、炭の燃焼時に発生する一酸化炭素の作用で肉の酸化が抑制されるとか。それで旨いかは分かりませんが、炭火で焼いた肉はガスより旨味成分が20%ほど多いという実験結果があるといいます
。
と、ここまで書くと炭火が圧倒的に優れているようですが、そんな炭火が主流にならないのにも訳がありそうです。
揺るぎない
ガスロースターの座
炭火の難点は一言で、まどろっこしいこと。焼くのに時間がかかるし、網の端と中央で焼け具合が違ったり、肉ののせ方にも気を使います。網いっぱいに肉をのせると、七輪が肉でフタをされた状態になってしまい、酸欠から炭火の力が弱まります。「炭が燃えてないよ」と呼ばれると、大体はこのケース。焼くのに時間がかかる上、網にのせるにも気をつかう、ではイライラがつのりますね。意外にこれは大きなデメリット。
その点、ガスロースターならロストル(鉄板)の熱がどの位置もほぼ均等、焼き方に気をつかわず誰が焼いてもおいしく焼けます。ちょうど自動車のマニュアルミッションとオートマチックに例えると分かりやすいかも。慣れた人ならマニュアルミッションの方が燃費もいいし、ファン・トゥー・ドライブ気分。だけど万人には不便。オートマチックの方は誰が運転してもそこそこいい燃費だし、クラッチ操作に使う神経を周囲の状況把握に回せる分、不慣れな人でも不安が少ない。
炭火とガスもそんな違いがあって、ガスの主流の座は揺るぎないのかも知れません。
もう一つ、炭火の環境的デメリットにも触れざるを得ません。ガスは一発点火なので気ままに火を消せますが、炭火は一度テーブルにのせると大体の場合、最後まで火をつけたまま置かれ続けます。夏だとこれが室内の気温を上げ、エアコンの温度設定、作動時間にも大きな影響が。 実は炭はテーブルにのる前も当然、火起こし場で燃やし続けられています。エネルギーの効率面でもエコではありません。さらに炭場でで出る灰は微量ながら周辺を覆いますし、永い目で見ると、清潔面でも余分な労力と負担がかかることになります。 そして、これはお店のオペレーションの問題になりますが、料理の盛り付けが出来上がっているのに、七輪ができないのでディッシュアップカウンターで待機とか、店内が混雑すると七輪の設置や炭の補充に人をさかれることで提供時間が押したりと、お客様にご迷惑をおかけしてしまいます。
実は当店は開業当初、焼肉には炭火が一番、との思いから七輪焼肉を屋号にスタートしました。が、店を始めて満12年が過ぎた2016年5月、逡巡の末、屋号から「七輪」の看板を下ろしてガス化に踏み切り「焼肉 舜」として出直しました。
理想の炭火かトータルバランスのガスか、最後に踏ん切りを付けさせたのは、妻の腱鞘炎のまま重い七輪を持って小上がりに上がるのはシンドイ、の言葉でした。思えば息子も閉店後に汚れた七輪を黙々と洗うのが日課、これがあるので閉店作業を終えて床に就くのは夜明け前。家族で長く店を続けるためにもガス化を決断しました。今後はこれまで炭火に費やしてきたエネルギーを、店舗のパフォーマンスの充実に努めたいと思っています。