これであなたも焼肉通
知って得するウンチク話
ホルモンは内臓類の総称
なぜか関東以北では70年代以降、「ホルモン」は牛の大腸の呼び名になりました。元々、ホルモンと言えば内臓類全体を指した呼称なので(全国的には今も)、両方の呼び名が混在して分かりずらいですね。
なぜ内蔵類をホルモンと呼ぶようになったかについては言い伝えがあります。いわく、明治以降も牛の内臓類を食す習慣が一般的でなかった日本では、正肉(赤身)以外は捨てられるも同然だった。
日本の植民地だった朝鮮半島から職を求め、あるいは強制的にかり出され、炭鉱やダム・鉄道など土木工事現場のタコ部屋(飯場)に多くいた在日一世たちがこの内臓類を譲り受け、ひもじさをしのぐと共に、やがて生業としていった。
捨てるもの=関西弁の「放るもん」からホルモンになった――この話は少なくとも私自身が大阪の親戚から実際に聞いた1960年代中頃には定説となっていました。
現在も、関西は在日の最も多くが居住する地域ですから、関西弁がシャレられたのも頷けようというものです。
確かに「ホルモン」と言えば焼肉屋系の内臓料理がイメージできます。ホルモン焼きは勿論、煮こみ、レバやセンマイなどの刺身(もう食べられませんが…)、鍋物や多彩なスープなど多岐にわたります。焼肉屋以外の内臓料理は「もつ」と言う呼称で区別されています。
そういう意味でも、ホルモンが在日の歴史と結びついたネーミングだという実証ではないでしょうか。
ちなみに、当店では「ホルモン」を本来の内臓類全体を指す呼称として使っていますので、ご了承下さい。牛の大腸を当店では韓国の呼称と同じく「テチャン」と呼んでいます。
「放るもん」説への反論
近年、「ホルモン=放るもん」説はマコトしやかなウソだ、という反論が登場。
いわく、①日本で内臓類は捨てる事なく食されてきた②昭和16年に大阪の洋食屋さんが内臓の煮込みを「ホルモン煮」として商標登録しており、内臓類は精がつくというイメージと体内分泌物のホルモンを重ね合わせたネーミングだ――と…。
私個人としては商標登録が事実であっても、それで前者の定説がウソになるとは言い切れないと思っています。
仮に、一部で内臓類が食され、実際には捨てられることがなかったとしても、正肉に比べ圧倒的に需要がなく、「放るもん」に等しいほど安く取引されただろう事は容易に想像できます(残念ながら、現在では値段が高騰、正肉以上の価格で取引される部位もあるほどですが)。
もし内臓類を食べるのがポピュラーであったなら、例えば和食の中にそうした料理がもっと一般的になっていても不思議でないはず。しかしそうした事実は見当りません。
それより「放るもん」に近かった内臓類を仕入れて商品化、シャレて内分泌物の「ホルモン」料理としたのが大衆化して、それを知恵のある1人の洋食屋さんが商標登録した――と仮説を立てたとしてもコジツケにはならないのでは、と私には思えます。
真偽はともあれ、少なくとも“日陰者”だった内臓類を、日本でここまでポピュラーな食材にせしめたのは先達(せんだつ)の知恵、焼肉料理の功績。ひょっとしたら正肉(赤身)需要の急速な増大と共に発生したであろう、内臓類のムダな投棄を防いだ重要な要素として、未来の歴史に刻まれているかも知れません。
和牛テチャン(しま腸)
和牛ハツ(心臓 heartがナマった呼称)
左から豚タン、AUS産牛タン、和牛タン
和牛タンは「黒タン」と呼ばれ珍重される
牛には胃袋が四つも
牛の胃は複胃と呼ばれ、四つの胃から成り立っています。 焼肉店での呼び名は一番目の胃がミノ(蓑)、二番目がハチノス(蜂の巣)、三番目がセンマイ(千枚)、四番目がギャラ(関西では「赤センマイ」)、そして二番目と三番目の間にタラコ状に付いているのがヤンです。
このうち人間と同じ消化器の役割をしているのは第四胃だけで、第一~第三胃は一度食べた草を反芻(はんすう)するための機能。第一胃では植物の繊維を分解し、第二胃は反芻のために餌を食道まで押し戻す役割を、第三胃は水と栄養物を吸収すると同時に、大きい餌をより分けて第一、二胃へと再度戻すなど、第四胃に入るものの量を調整する役割をしているといわれます。
第一胃のミノは、その機能から草を食べれば食べるほど大きくなります。したがって、主に穀物をエサにする和牛は、草をエサにする牛に比べ当然、ミノが小ぶりになります。
レバの良し悪しはまず色を見て下さい。茶色に近いものより、濃いチョコレート色の方が肉質、味、鮮度ともに「良」です。さらに、いいレバはツヤと弾力があります。
ハラミは皿に盛られた状態では一見、正肉(赤身)に見えますが、実は横隔膜の部位でホルモンに分類されます。和牛ハラミですとサシ気も見事で柔らか。以前ならホルモンの値段で上カルビを食べるような、お得な肉だったのですが…。近年のブームで品薄になり、仕入は高価なうえ手に入れることも難しくなっています。焼肉店でお手頃価格のものは、ほぼ輸入牛か和牛以外の国産牛と思って間違いないでしょう。
中心部に垂れ下がった柔らかいコブはサガリ(米国名ハンギング・テンダー)と呼ばれ、輪っか状の部位がハラミ(米国名アウトサイド・スカート)と呼ばれています。
コブクロは漢字で「子袋」と書く通り、子宮です。ただ、牛の子宮と思われがちですが、焼肉店で出されているのはいずれも豚の子宮。牛は固すぎて食用には向かないそうです。
節目で切り取り、表面を処理した和牛テール
処理前の和牛レバ
色、ツヤ、ハリで質の高さがうかがえる
皮をむいて表面処理した和牛ハラミ
半円の中心にある塊はサガリ部位